一般社団法人あがり症克服協会 代表理事 鳥谷 朝代
株式会社スピーチ塾 代表取締役
人見知り克服協会 代表
心理カウンセラー
NHKカルチャー/朝日カルチャー/よみうりカルチャー
中日文化センター/リビングカルチャー話し方講師
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緊張とは、一体どんなものなのでしょうか。
日常生活でたびたび経験するこの感情は、多くの人にとって避けがたい現象です。
しかし、緊張が過度になると、日常生活に支障をきたすこともあります。
この記事では、緊張の原因とそれがもたらす影響、そして緊張を抑制するための医学的アプローチについて掘り下げていきます。
特に、「あがり症」と呼ばれる状態や社交不安障害(SAD)に焦点を当て、これらの状態がどのように扱われるべきか、薬物療法を含む様々な治療法の効果と限界について考察します。
緊張は本当に薬で治るのでしょうか。それとも、他の方法で対処すべきなのでしょうか。
この記事を通じて、緊張感とその対処法に関する理解を深めましょう。
目次
1.あがり症とSAD
2.緊張の症状と病気の症状の違い
3.緊張を抑える薬
4.まとめ
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1.あがり症とSAD
「あがり症」自体は正式な病名ではなく、いわゆる通称です。
「あがる(上がる)」という言葉を辞書で引くと、「《血が頭にのぼる意から》のぼせて平常心を失う」と出てきます。
対人場面での恐怖・不安が強く、日常生活に支障をきたす(人と食事できない、電車に乗れない等)場合は、心療内科で「社交不安障害(SAD=Social Anxiety Disorder)」の診断がつき、薬物療法による治療を行うケースもあります。
ですが、多くの人の前に出て緊張を感じること自体は当然のことですのでその反応は病気でもなんでもありません。
(※以前は「社会不安障害」と呼ばれていましたが、「社会不安」という言葉が誤解を招くことも多く、2008年に「社交不安障害」と呼ばれるようになりました。)
ただし、過度の緊張、ストレス状態が長く続くと、自律神経のバランスが乱れ、体調悪化を招くことは考えられますので、できるだけ放置せず、早めに対処することが大切です。
2.緊張の症状と病気の症状の違い
緊張すると、「声が震える」「手足が震える」「汗をかく」「赤面する」「頭が真っ白になる」etc・・・の症状が出てきます。
こうなってしまうと、つい、「自分は病気なんじゃないか」と思ってしまいますが、これらは決して異常な症状ではありません。
人は不安や恐怖を感じると、神経伝達物質「ノルアドレナリン」が血液中に多量に分泌され、自律神経のうちの交感神経を刺激します。
すると心拍数や血圧、体温などが急上昇します。
体温を下げるために汗をかき、筋肉が硬直することにより震えが起きてきます。
消化機能が抑えられるため、食欲は無くなってきます。
これらはすなわち、体が戦闘体勢に入るということです。
たとえば、動物は外敵から身を守るために、危険を察知すると周りの動きに集中し、全身を硬直させ、素早い行動ができるよう対応します。
この本能がなければ、たちまち命の危険にさらされてしまうのです。
人も同じ。
人前はある意味「危険が差し迫った状態」ですが、交感神経が優位に立つことで、集中力・身体能力を高め、パフォーマンス向上へとつながります。
私たちの体はとてもよくできています。
あがりの症状は、異常でも病気でもなく、ここ一番という場面に遭遇したあなたの心と体を助け、応援してくれようとする自己防衛本能なのです。
3.緊張を抑える薬
一般的なケースになりますが、あがり症の方が心療内科に通った場合、社会(社交)不安障害(SAD)と診断され、以下のような薬が処方されます。
抗うつ薬の選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)
<薬剤名>
パキシル、デプロメール、ルボックス、ジェイゾロフトなど
<作用>
セロトニンは精神を安定させる作用がある脳内の神経伝達物質ですが、この薬はセロトニンが減少するのを抑えることで、不安や恐怖などのあがりの症状を改善する薬です。
効果発現に1~2週間ほどかかります。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)
<薬剤名>
デパス、ソラナックス、コンスタン、ワイパックス、レキソタン、メイラックス、レスタスなど
<作用>
この薬は、脳の中の感情をコントロールしている部分に作用し、神経の過度な興奮を抑える物質ガンマ・アミノ酪酸(GABA)の働きを高めることにより、気持ちを落ち着かせたり、緊張や不安をやわらげる薬です。
第一選択薬はSSRIですが、SSRIの効果が発現するまでの期間など、頓服で使用されるケースが多いです。
その他
βブロッカーと呼ばれる、高血圧・狭心症・不整脈に用いられる薬<薬剤名 ミケラン>が処方されることもあります。震えや動悸などの症状を改善する薬ですが、低血圧や喘息の方には使えません。
薬物療法が効果的なケースもありますが、あくまで対処療法であり、また副作用もあります。
それとあまり知られていないことですが、心療内科に通うと実は生命保険に入ることが非常に厳しくなります。
“心の病”が一般的となり通いやすい印象も強くなっている心療内科ですが、安易に通うと生活上不利となることもありますので、通う場合は慎重に検討することをお勧めします。
4.まとめ
あがり症克服協会の受講生および講師陣も、かつて心療内科に通い薬を処方され服用していた人が多くいます。
緊張は誰もが感じることですが、あがり症で苦しむ人は徐々に自分ではどうにもできない程の緊張感に包まれて体が異常とも思える反応を示します。
声の震え、手足の震え、心臓のバクバク感、息苦しさ、発汗、赤面・・・
それはまるで命が危険にさらされているかのように思うほどです。
体の中のできごとで自分の力ではどうにもできないことから、ふと「病院」が頭をよぎり、そこに頼ろうと考える人が多くいるのです。
ですので、まず「病院」に頼ろうと考えること自体は不思議なことではありません。
では実際に病院に通ってみてどうだったのでしょうか。
あがり症克服協会の講座では受講生の方に受講動機を伺っていますが、
その中からかつて薬を服用していた方の受講動機を一部紹介いたします。
いかがでしょう。
共通しているのはみなさん、薬で一時的にしのいだ感覚はあったものの根本的には改善していないとおっしゃっています。
そして、しのげるのであればそれを服用しつづける手もあると考えられますが、それをせずに「根本的に治したい」「薬以外の対処が必要」という意思を持たれています。
もうひとつ興味深いお話があります。
「緊張は薬で治るか?」の問いに、答えを示してくれた受講生の方がいました。
その受講生とは、現役の精神科医の先生です。
「緊張は薬で治らないのですか。」
「治りません。服用すると頭がぼーっとした感じになり、かえって危険な場合もあります。」
医療に携っているからこそ、薬の限界を感じていらっしゃるとのことでした。
私たちあがり症克服協会の見解としても「緊張は薬で治る?」の問いに対する答えは「No」です。
それは、緊張は人間が怖さを感じたときに生じる自然な事象であること、いわば「本能」と位置づけていて、「本能」をなくすことなどできないと捉えているからです。
取り除くのは緊張ではなく「恐怖」です。人前での「恐怖」を徐々に取り除いていくことで、緊張をなくすのではなく、緊張を「いい緊張感」まで低減・コントロールするアプローチをとっています。
多くの受講生や講師陣が薬を使わずに人前で話せるようになる姿を数えきれないくらい見てきました。
そのことが何より、緊張は病気ではなく薬で治すものでもないことを物語っていると思います。

