ダイエットとあがり症克服
「夏までに5kg痩せる!」と言い続けて早数年。約束は破らない主義ですが、この自分との約束だけは果たせたことがありません……。
「いきなり何の話をしているんだ?」と思われた方も多いかもしれません。が、実はダイエットと、あがり症の克服には意外な共通点があるのです。
このコラムでは、そういった共通点をある程度科学的な視点から見ていき、
「“理性”だけで“あがり”を抑えられないワケ」
そして
「あがり症の克服における“体験”の重要性」
についてお話していきます!
小難しい話もほんの少し出てきますが、構える必要はぜーんぜんありません。
ダイエットが難しい理由を考えていくと、その答えがおのずと見えてくるのです……。
最後でしっかりまとめるので、しばらくダイエットの話にお付き合いください(;^ω^)
痩せたい でも、食べたい
ええっと、僕が痩せられない理由ですか?
そんなの簡単です。甘いモノばっかり食べているからです。
気が付いたら買い物かごにプリンが入っていて、
気が付いたらそれが冷蔵庫に入っていて、
気が付いたら無くなってるんです。
こんなの防ぎようが無いじゃないですか!
でも、これって考えてみたら少しおかしな話です。
なぜなら
- 僕は(割と本気で)ダイエットしたいと思っている
- 甘いものを食べたら太りやすいことは当然知っている
- それでもついつい甘いものばっかり食べてしまう
思考と行動が矛盾してますよね。
僕だって理性のある人間です。野生の動物さんと違って、日々あらゆることを自制しながら生きています。
それなのにどうして「頭では分かっているのに自分を抑えられない」ということがあるのでしょうか。
僕の精神がたるんでいるからでしょうか?それとも本能のままに生きるワイルドな男だからでしょうか?
いえいえ、実はこれにはもっとちゃんとした理由があるのです……。
人類はプリンに勝てない!?
ご存知の通り、人間の脳は各領域でそれぞれ異なる仕事をしています。
その中でも我々の「理性」をコントロールしているのが「前頭全皮質」と呼ばれる領域だそうです。(別に名前は覚えなくても大丈夫ですよ)
理性を司っている「前頭全皮質」は、脳の他の領域とも繋がっていて、絶えず信号を送っています。
嫌いな上司にビンタをしなくて済むのも
生意気な部下にブチ切れなくて済むのも
前頭全皮質くんが頑張って「まあまあ、落ち着きなさいな」と働きかけてくれるからです。
さて
この前頭全皮質くんですが、僕がプリンを食べている間も実はしっかり働いてくれています。
「ダイエット中にプリンはダメですって!後で絶対後悔しますよ!」ってな具合です。
ところがどっこい。
脳の別の部分では、「さあ、プリンを食べるのです!それは生きるために必要なことなのです!」
と命令を出している脳の領域が有ります。俗に言う食欲ですね。
さながら天使と悪魔の綱引き。
そして多くの場合、悪魔(食欲)が勝つわけですが……この理由はとても単純です。
そもそもの脳の作りとして、前頭全皮質(理性)の働きより、食欲を初めとする本能の働きの方が、圧っっっっっっ倒的に強いのです。
個人差はありますが、
理性<<<<<<本能
というのが脳の基本設計です。解剖学的に確認されています。
例えるなら、大火事に対して水鉄砲で挑むようなもの。効果はあるけれど威力が小さ過ぎるのです。
だから僕はプリンを食べることを止められない……っとまあ、理由はもちろんそれだけではないのですが、非常に大きな要因であることは間違いないです。
要するに、神経学的な観点(脳みその仕組み)から見ても
「本能に比べれば理性の働きってそんなに強くないんだよ」
ということでございます。
僕がプリンの誘惑に勝てないのは、決して精神がたるんでいるせいではなく、人間の脳の設計のせいなのです!!
僕らは今でもおサルさん
そろそろプリンの話から離れますね(;^ω^)
長々と話してきましたが、
「理性だけで本能的な欲求を抑えるのは、人間の脳の仕組み的にかなり難しいんだよー」
というのがここまでの流れでした。
「じゃあそれが“あがり症”と何の関係があるのさ」
というお話をしていきましょう。
突然ですが皆さんに質問です。皆さんのあがり症はどんな時に顔を出しますか?
シチュエーションは人によって様々だと思いますが、それらには“ある共通点”があります。
それは
「恐怖」
です。
頭が真っ白になったり、心臓がバクバクしたり、手足が震えたり、呼吸が浅くなったり・・・。
体や心がそういった緊張を感じるのは、ご存知「ノリアドレナリン」の働きが大きいですが、そもそもノルアドレナリンを出すよう体に働きかけるのが、「恐怖を感じる脳の領域」なのです!
その「恐怖を感じる脳の領域」の名前を「偏桃体」(へんとうたい)と呼びます。
人の脳は危険を察知すると、「恐怖」という感覚を生み出して、その危険を避けるように促します。
「そんな危険なモノに近づいちゃダメ!ほら、怖いでしょ?やめとこうよ・・・」と言った具合に。
多くの人は、高いところや火に恐怖を感じ、基本的にはあまり近づこうとはしませんよね。
“怖い”という感情が働くおかげで、我々はそういった危険を避けることが出来るのです。
このように「恐怖」という感情を利用して、身に危険を知らせてくれるのが「偏桃体」というわけです。(もう少し厳密に言うと“島(とう)”という領域も絡んでいるのですが、割愛)
ところが偏桃体、実はあまりお利口さんではありません。
本当に危険な時はそれでよいですが、全然命に関わるような危険ではなくても、過剰に反応してしまうのです。
「危険だ―!危険だ―!」と。
偏桃体というのは、我々がおサルさんだった頃からあまり形が変化していない、つまりは原始的な脳みそで、こういった過剰な反応を見せるのは、その頃の名残だったりします。
現代日本では、日常的に死と隣り合わせ……ということはあまりありませんが、おサルさんだった頃は違います。
少しでも危険の察知が遅れれば、死に直結しかねません。
ヘビを目の前にして、
「はて?このヘビは毒があるかな?ないかな?」なんて悠長に考えてたらカプリと噛まれてサヨウナラ……なんてことになりかねないわけです。
そんなわけで、原始的な脳である偏桃体は、少しでも危険を感じるとヒステリーと言ってもいいぐらいのレベルで騒ぎ立てるのです。
生きていくのって、大変ですネ……。
理性とあがりの綱引き
さてさて、私たちが人前でのスピーチで緊張しているとき、当然この偏桃体が働きまくっています。
「怖いよー!今すぐ危険を排除するんだ!」と。
そして、ここでも理性は一応登場しています。
「人前は怖くない」
「自分で思っているほど、人は自分のことを見ていない」
「自分が思う“失敗”は実際それほど悪いモノじゃない」
などなど
これらは掛け値無く本当のことです。
これらを自覚することが、あがり症克服の第一歩であることは間違いありません。
しかしこれらの理性的な考え“だけ”では、偏桃体の反応を抑えきることが出来ません。
ダイエットの話の時に出てきましたね
脳の仕組みとして、そもそも「理性より本能の方が圧倒的に強い」のです。
その中でも、特に偏桃体の働きは強力だと言われています。
お腹が空いてもパニックになることはあまりありませんが、恐怖のせいでパニックになることはありますよね。
それだけ、恐怖の反応というのは強力なのです
偏桃体が
「危険だよ!危ないよ!死んじゃうかもよ⁉」
と生命の危機を叫んでいるときに、
前頭全皮質(理性)が、
「まあまあ、落ち着いて茶でも一杯やろうや」
なんて言うだけでは効果が薄い、ということです。
“腑に落ちる”っていい言葉
「じゃあ結局どうすれば良いのさ⁉」
という声が聞こえてきますが……ご安心ください!
そろそろまとめに入りますよ。
キーワードは“腑に落ちる”です。
皆さん、このような経験はありませんか?
・うるさかった親の小言。当時は気に留めなかったけれど、実際にそれを体験するとその言葉が妙に身に染みた。
・「危ない」と分かっていてもついついやってしまうアレやコレ。実際に危ない目にあってからは、それをやらないようになった。
要するに「親の小言は後から効いてくる」とか「痛い目にあってみないと分からない」とか「百聞は一見にしかず」とか「習うより慣れよ」とか・・・等々、ある種の教訓ですね。
頭では分かっていても、あまりピンとこない。
でも体験してみると妙に“腑に落ちる”。
こういうことってすごく多いですよね。
実はこれ、生理学的にものすごーく理に適っているのです。
我々の体を動かしているのは脳みそです。
僕がこうやってキーボードを叩けるのも
「指よ、動くのだ!」
と脳が神経を通して体に命令を出しているからです。
という話をすると、体は一方的に脳みそに支配されているように考えてしまいますが、実はそんなことはありません。
体の方からも、脳みそに信号を伝える神経が走っています。
その中でも特に重要なのが「迷走神経」と呼ばれるものです。
こいつはなんと、脳からお腹まで通っている神経です。
(腹式呼吸や発声が重要である大きな理由はこれです)
この神経から伝わる情報は中々に強力で、理性(前頭全皮質)の働きよりも格段に上です。
“腑に落ちる”とは正にこのことで、人は頭で考え理解したことよりも、実際に体験したことの方が何倍も納得しやすい構造になっているのです。
ちなみに、こういった迷走神経(体験)から脳にアプローチする方法は、いわゆるトラウマの治療でも盛んに用いられています。
先ほどまで
「脳の仕組み的に、理性だけでは本能の方が圧倒的に強い」
「恐怖・緊張も、偏桃体が引き起こすある種の生存本能」
「だから、理性“だけ”であがり症を抑えるのは難しい」
という話をしてきましたが、この迷走神経をから伝わる信号、つまりは「体験」という強力な助っ人――いや、もはや主役ですね――が加わることにより、恐怖・緊張を抑えることも可能になるのです。
薬のリスク
逆から読んでも「クスリのリスク」
いえ、薬物療法の話ではありません。
生理学的に見ても「体験」は非常に強力な情報なので、使い方によっては毒にも薬にもなるということです。
それは「体験をするな」という意味ではなく、「良い体験をしましょう」という話です。
何も対策をしないまま何となく本番に臨み、失敗し、(あるいは失敗したと思い込み、)それが嫌な体験として記憶に残り……と、かの有名な負のスパイラルに落ちいらないように、まずは練習で「成功した」「人前は怖くない」という体験を得ることが重要なのです。
「あがり症の克服なんて無理」「バカバカしい」「くだらない」「胡散臭い」
と思っていても大丈夫です。
体験によって得られる効果は、そんな考えすら簡単に覆していくのですから。
さて、ようやくまとまりましたね。本能に従い、プリンでも食べるとしましょう……。
村田 光史(koji)