「対人恐怖症」と聞くと、どのような印象を持つでしょうか?
精神疾患、心の病気、神経症…そのような印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
対人恐怖症とは、対人場面での不安や緊張により、人と関わることを避けようとする神経症の一種であるとされています。
ですが、こうした悩みは、実は多くの人が抱える問題であり、決して珍しいことではありません。
「あがり症」や「社交不安障害(SAD)」も対人恐怖の一種です。
1) 対人恐怖症の原因
元々内気でシャイな性格が要因であることもありますが、幼い頃の家庭環境、学生時代の失敗体験によるものが大きいと言えます。たとえば、
- 厳しい両親に育てられた人が、「常にいい子じゃないといけない」という思考パターンにより、自分の言いたいことを言えず、我慢してしまう。
- 幼少期や学生時代にいじめを受け、「自分は存在するに値しない」「ありのままの自分は嫌われる」と感じて、人と関わることを避けてしまう。
- 学生時代の本読みで、漢字の読み方を間違え、先生に指摘されたり、クラスの子に笑われたことがきっかけで、人前で思うように振る舞えなくなる。
このような経験や環境により、人との関わりの中で強いストレスや不安が生じるのです。
やがて、会社に出勤する、あるいは学校に登校するのも苦痛になるなど、社会生活に深刻な影響を与えるケースもあります。
2) 対人恐怖症の種類
対人恐怖症の症状は多数ありますが、ここでは代表的なものを挙げます。
○ スピーチ恐怖
対人恐怖症の中でも最もポピュラーであり、大勢の前でのスピーチや挨拶が苦手な人は多くいます。心拍数が早まる、声が震える、資料を持つ手が震える、などの症状が代表的です。
○ 視線恐怖
他人が常に自分に注目している、自分の噂をしている気がするといった「他人の視線を恐れるタイプ」と、自分の視線が相手に不快感を与えてしまうことを恐れる「自分の視線を恐れるタイプ」がいます。
○ 赤面恐怖
学生時代など若い頃に人前や異性の前に出ると顔が紅潮し、それを他人に指摘されたことで、意識し出す人が最も多く、実はそれほど赤面していないときでも、本人は過剰に気にしているケースも少なくありません。
○ 電話恐怖
電話でのやりとりに苦手意識を持っているタイプです。職場などで、誰かに聞かれていると思うと、かかってきた電話に出られない、かけるときは別室に移動してかけるという人もいます。
○ 会食恐怖
人と食事をするとき、異常に緊張してしまう人です。程度には個人差があり、大勢の飲み会やパーティーに出席するのが苦痛だと感じる人から、1対1の食事もできない人もいます。
○ 書痙
冠婚葬祭時の受付での記名や、ホテルのチェックインなど、人に注目されていると感じると、ペンを持つ手が震え、字が書けなくなってしまう人です。
○ お茶出し恐怖
その名の通り、上司や来客にお茶を出すときに手が震えることで、緊迫した会議などで特に顕著に現れます。お酌をするときにビール瓶を持つ手が震えるなども同様です。
○ カラオケ恐怖
学生時代の歌のテストでの失敗経験により、カラオケ恐怖症になる人も多くいます。周りがシーンとしていて、みんなが自分の歌をじっと聴き入っていると意識すると、鼓動が早くなり、声が上ずってきます。
3) 対人恐怖症の治療法
○ 薬物療法
- 抗うつ薬(SSRI)
脳のセロトニンを増やすことで扁桃体の過活動を抑制し、不安や恐怖を軽減させる。
【商品名】ルボックス、パキシル、デプロメールなど - 抗不安薬(安定剤)
緊張や不安を一時的に軽減させる効果があるとされており、抗うつ薬の補助として使用されることが多い。
【商品名】ワイパックス、ソラナックス、デパスなど - βブロッカー(交感神経β受容体遮断薬)
心拍数を抑え、血圧を下げる作用があり、動悸や震えといった身体症状が強い場合に使われる。
【商品名】インデラル、アルマール、ミケランなど
○ 認知行動療法
不安や恐怖の原因となる考え方のクセや思い込み(認知)を修正していく方法を、認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioural Therapy)と言います。
対人場面で不安がある人は、「自分はどうせ失敗する」「他人は自分を悪く思っているのではないか」といった認知の歪みが生じています。
そこで、自分自身の姿を撮影して思い込みを確認したり、苦手な場面に少しずつ慣れていくという訓練をしながら、精神的苦痛や身体的症状を改善していきます。
効果や持続期間は薬物療法と同等あるいはそれ以上であるとされており、対人恐怖症、社交不安障害、うつ病などの治療に用いられています。
個人で行う場合と、集団で行う場合があります。
4) まとめ
人との関わりの中で、誰もが少なからずストレスや不安を抱えています。
対人恐怖症を治すには、自分の思考を変え、今できることから少しずつ取り込み、行動をしていくことです。
from : 鳥谷 朝代