一般社団法人あがり症克服協会 認定講師 宮松 大輔
心理カウンセラー
NHKカルチャー話し方講師
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目次
1.はじめに ─ 変わりたいけれど、変われない
2.なぜ、人はあがってしまうのか ─ その背景と“行動”の関係
3.あがり症を強める思考と行動パターン
4.克服のカギは“行動を変えること”
5.“安心できる場”だからこそ、変われる
6.あがりには波がある。でも、変化はちゃんと積み重なる
7.最後に ─ 「変わりたい」と思ったその気持ちを、大切にしてほしい
1.はじめに ─ 変わりたいけれど、変われない
あがり症克服協会の講座に来てくださる方は、人前で話すときに強い緊張を感じて困っていたり、「変わりたいけれど、なかなか変われない」と感じていらっしゃる方たちです。
多くの方が、本を読んだり、ネットやYouTube、SNSで調べたり、あるいは心療内科などの病院に通ってみたものの、「がんばっているのに成果が見えない」「行動しても自信が持てない」と感じて、あがり症克服協会に足を運んでくださっています。
私自身も、かつては高校時代の国語の本読みをきっかけに、人前で声が震え、頭が真っ白になるような経験を何度もしてきました。
もともと内向的で繊細な気質があり、緊張しやすい自分に悩んでいた時期も長くありました。
「このままじゃだめだ」と思ってはいても、どうすれば変われるのかが分からず、何度も壁にぶつかっては落ち込む日々の繰り返しでした。
ですが、あがり症克服協会のテキストにも記載されている「あがり克服へのステップ」という行動を重ねることで、あがりを一つひとつ乗り越え、今では講師としてみなさんのサポートをさせていただける立場になれています。
このコラムでは、あがり症を引き起こしやすい行動や思考のパターン、そしてそこから抜け出すために私自身が実際に取り組んできた行動の工夫についてお伝えしています。
2.なぜ、人はあがってしまうのか ─ その背景と“行動”の関係
改めて、「なぜ人前であがってしまうのか?」ということについて考えてみました。
人前であがるようになった背景には、過去の失敗経験、厳しい指導、進学・就職・立場の変化など、さまざまな環境の変化が影響していることもあると思います。
でも、そういった経験をしている全ての人があがり症になるわけではありません。
つまり、あがり症が続いてしまうのは、「その後の思考と行動のパターン」による部分が大きいと考えられます。
たとえば、
・話す機会を避けることで、ますます“できない感覚”が強まる
・完璧を求めすぎて、行動する前から自信を失ってしまう
・緊張した自分を責め、自己評価が下がっていく
このような負の循環が、あがりをさらに強めていく原因になります。
私自身の経験からも、それは間違いないと感じています。
3.あがり症を強める思考と行動パターン
だからこそ、あがり症を改善するには、「考え方」だけを変えようとするのではなく、「行動」そのものを変えていくことがとても大切です。
自分の行動があがり症を作ってしまったのであれば、自分の行動を変えることで、少しずつ違う自分になっていける。
これは、心理学的にも効果が認められている「認知行動療法」の基本的な考え方であり、薬物療法とは異なる、あがり症克服協会の根幹にある方法論でもあります。
たとえば、
・緊張しても、まずは場に立ってみる
・自分ができたことや、出せた声に目を向ける
・完璧を目指さず、「やってみたこと」自体を肯定する
こうした行動の積み重ねによって、「緊張してもなんとかなる」「やってみて大丈夫だった」という感覚が少しずつ育っていきます。
これは、「人前=怖い場所」と染みついてしまった心や体の記憶を、少しずつ塗り替えていく作業です。
そのときに、不安はあってもいいです。
実際、私も今のように緊張をコントロールできるようになってから講師になったわけではありません。
講師として活動しながらも、まだ緊張や不安が残る中でこうした行動を積み重ねて、いまの自分を少しずつ築いてきました。
今もまた、経験を重ねながら、強さを育て続けている最中です。
4.克服のカギは“行動を変えること”
とはいえ、行動の実践がうまくいかずに落ち込んでしまうこともあります。
たとえば、勇気を出して話してみたけれど、周囲の反応が気になってしまい、逆に落ち込んでしまったり、「緊張してたね」と言われて自信を失ってしまったというようなケースです。
残念ながら、職場や保護者会、自治会などの場では、あがり症に対する理解がまだまだ浸透していないことも多く、共感してもらえる環境が整っていない現実もあります。
私自身も、職場で「実はあがり症で……」と打ち明けるのは簡単なことではありませんでした(最終的には言いましたが)。
人と比べて「自分だけうまくいっていない」と思ってしまったり、ほんの小さな成功も「たまたま」と片づけてしまう――そんな自分のクセに気づくことも、行動を変えていく中で必要になってきます。
だからこそ、「安心して試せる環境」での実践が非常に重要だと感じています。
5.“安心できる場”だからこそ、変われる
あがり症克服協会の講座や発表会は、同じ悩みを持つ方々が集まる場所です。
緊張することを前提にした場だからこそ、失敗や声の震えも「当然のこと」として受け止められ、誰かに責められることは決してありません。
たとえ自分としては「うまくいかなかった」と感じたとしても、周囲からは「よかったところ」や「できていたこと」を見つけて伝えてもらえる──この経験が、想像以上に大きな意味を持ちます。
実は私自身も、最初の頃は「できなかったところ」ばかりに目がいってしまい、「よかったよ」と言っていただいても、「いえいえ、全然だめでした」と否定してしまうようなことがよくありました。
口では言わなくても、頭の中ではそう思ってしまっていたりしました。
素直に受け取ることができなかったんです。
でも、何度も講座や発表の場に出て、「また声が震えてしまった…」と思っていたときに、周りの方から「ちゃんと最後まで話せてたよ」と言ってもらえたことがありました。
そのとき、「あ、自分の視点だけがすべてじゃないんだ」と、ふと心に引っかかるような感覚があったんです。
それからは、自分では気づけなかったことを人から教えてもらう時間を、少しずつ大切に思えるようになりました。
たった一言の感想、ちょっとした共感、誰かのがんばる姿──
それらが、自分の中に静かに積み重なって、自分の力につながっていきました。
だから私は、「出られる講座やイベントにはすべて参加して、あがり症を乗り越えてきた」と自信を持って言えるのです。
あがり症の方には、そんなふうに自己否定感が強く、自分の中のよかった点やできた部分を見つけることがとても難しい傾向があります。
そして、逆に小さな失敗やうまくいかなかったことばかりを拾い上げてしまい、せっかくの前進が「なかったこと」にされてしまう──それでは、どれだけ努力しても自信が育ちにくいのは当然です。
だからこそ、「自分では気づけなかった部分に気づける場」があることが、あがり克服の大きな支えになります。
6.あがりには波がある。でも、変化はちゃんと積み重なる
「緊張しなくなったと思ったのに、また緊張してしまった」「すぐには変われないかもしれない」と感じる方もいるかもしれません。
でも、変化というのは常に右肩上がりに進むものではなく、時には行きつ戻りつしながらも、確実に積み重なっていくものです。
私自身も、「階段を登るように順調にあがらなくなっていった」というよりは、
「緊張との向き合い方が少しずつ変わっていった」「前回より今日のほうが緊張したな」など、波を感じながらも、できることが徐々に増えていったという実感があります。
たとえば、
・緊張のピークが短くなった
・前より声を出せる場面が増えた
・緊張したあとの落ち込みが軽くなった
こうした小さな変化を見逃さず、自分で「進んでいる」と認識することも、あがり症を克服していくうえで大切なステップです。
変化をあまり感じられないときほど、「これ、本当に意味があるのかな?」と不安になることもあると思います。
でも、正しく積み重ねた行動は、必ずあとになって結果として返ってきます。
講座では、自分では気づきにくい変化や「よかったところ」を、ほかの人の感想や視点を通して受け取る機会を大切にしています。
あがり症の方は、つい他人と比較して落ち込んでしまいがちで、それが克服の足かせになることも少なくありません。
だからこそ、自分では見えにくい部分に光を当てる時間を大切にし、その工程を省略することはありません。
7.最後に ─ 「変わりたい」と思ったその気持ちを、大切にしてほしい
あがり症は、「性格だから仕方ない」「一生治らない」とあきらめるものではありません。
実際、そう思い込んでいた私自身も、変わることができました。
長年、心療内科に通い、薬にも頼っていた私が、「行動」を少しずつ変えていくことで、話すことへの安心感を取り戻していったのです。
焦らなくて大丈夫です。
不安を抱えたままでも構いません。私もそうでした。
不安があるからこそ踏み出すのは怖いものですが、それでも大丈夫。
そのままの気持ちで、一歩だけ前に進んでみることが、変化への大切なきっかけになります。
変わりたいと思っていたら、その一歩を踏み出してみてください。
その一歩が、「変わりたい」と願う気持ちを、少しずつ前へと動かしてくれるはずです。
あがり症克服協会の講座は、「本当は変わりたい、動きたい、でもきっかけがほしい」と思っている方の背中を、やさしく、自然にそっと押してくれるような場所です。
あがり症克服協会に出会ってから年月が経ってきましたが、私が一番自信を持って言えるのは、通ってくださっているみなさんの存在です。
本当にあたたかくて、思いやりに満ちた方ばかりです。
あがり症の苦しみを知っているからこそ、自分だけでなく、周囲のあがり克服も願って行動し、声をかけられる──そんな方々に囲まれた講座や発表会だからこそ、あがり症を乗り越えていける環境がつくられているのだと思います。
これはもちろん、協会の理事長である鳥谷朝代先生の「誰もひとりにしない」という信念のもとで築かれてきた空気感が、今もなお大切に受け継がれているからこそ。
そして、これまで協会に通ってくださった何万人という方たちが、それぞれの悩みや葛藤と向き合いながら、勇気を出して一歩を踏み出してきた、その積み重ねがこの場のあたたかさを形づくっています。
そうした「受け継がれてきた力」のようなものが、この場所には確かにあると感じています。
これほどの空間は、探してもなかなか見つからないと思います。
必要なときには、どうか一人で抱え込まずに、頼ってくださいね。
あなたの変化を、心から応援しています。

